クリステンセンへの質問

今夕、大阪で開催された某セミナで、イノベーションのジレンマで有名なクリステンセン教授に質問する機会を得た。「ハードディスクドライブの小型化は技術的にstraightforwardなものなのではなく、高密度化・高速化という技術性能向上や運用性や信頼性に向上というマーケットサイドからの要求の両面に応える必然的なソリューションなのではないか?」という質問をしたのだが、返ってきた答えは、「イノベーションのジレンマで述べた“ハードディスクドライブにおける小型化は破壊的:disruptive技術である”という記述は考察が不十分であった、今は、“小型化というのはビジネスモデル的に破壊的:disruptiveなイノベーションだ”と考えている」というものであった。許されている時間も少ない中で、イノベーションの定義を議論してもしょうがなく、追い討ちの質問はやめておいた。質疑としては消化不良ではあったが、逆に、現在、執筆を進めている論文のメインテーマである、
イノベーションとはるコンセプトでなければならない。
イノベーションはアポステリオリではなく、アプリオリなものでなければならない
イノベーションは、技術と市場の双方からの必然性・合理性がなければならない
という3点についての確信が深まった。

ハードディスクドライブの小型化というコンセプトは、単にPCやHDVへのハードディスクドライブの普及を促しただけでなく、RAIDのようなシステムの誕生を促し、それが今のインターネットにおける情報の爆発的な増大を支える原動力となっている。
また、破壊的イノベーションといわれているデジタルカメラについても、表層的にはデジタルカメライノベーションに見えるかもしれないが、本質的には、「デジタルで思い出を記録し保存する」というコンセプトがイノベーションなのである。デジタルカメラ自身は既存の銀塩カメラのマーケットを単に置き換えただけであるが、このコンセプトとネットの普及というビジネス環境から生まれたカメラ付き携帯電話は新しいマーケットを創造した。
このようなものをイノベーションというべきなのではないだろうか。クリステンセンさんはいろいろなイノベーションの定義をイノベートしているようである(例えば、After the Gold Rushという論文の中ではThe Internet is inherently neither a disruptive nor a sustaining technology; it is instead an infrastructural technology that can be used in either a sustaining or disruptive way.なんて言っている)ので、異論はあるかもしれないが・・・・。

上記のような私なりの定義のイノベーションのメカニズムを表現できるモデルも徐々に出来上がりつつあり、ほぼ論文の骨子も固まった。再来週の金曜日には、経営やITビジネス戦略、科学技術政策等を専門としている第一線の大学教員の集まりで、この論文の概要を紹介できる機会もある。どんなコメントがもらえるかが今から楽しみである。